慢性腎臓病とは
腎臓は、血液をろ過していき、体内で不要とされる老廃物や水分を尿として排泄する働きをする臓器です。必要なものを体内に留め、不要なものを尿に排泄するフィルターの役目をしています。
この腎臓が何らかの原因によって機能低下していき、この状態が3ヵ月以上も続いていると慢性腎臓病と診断されます。(eGFRが60 mL/分/1.73m2未満、尿蛋白が3ヶ月以上持続)
現在、日本では、1,330万人の方が慢性腎臓病と推計されており、これは、成人人口の1/8にあたります。また、わが国での透析を行っている患者さんの数は約34万人で、年間約4万人の方が新たに透析を開始せざるを得ない状況になっています。特に人生100年時代では70歳以上の透析患者さんの増加が著しいです。
慢性腎臓病にもいろいろな種類がありますが、確実に進行を止める治療がないのが現状です。
しかし、最近になり、いくつかの新しい薬が慢性腎臓病の悪化に有効であることが明らかになり、腎臓内科の医師を受診することが推奨されます。少しでも早めに発見し、腎機能をできる限り維持していくことが重要になります。
慢性腎臓病と診断され、無治療の状態が続けば、最終的には腎不全まで進行し、人工透析や腎移植が必要となることもあります。なお腎機能はある程度まで低下してしまうと、元通りになるまで回復することは困難です。そのため、健診などで定期的に行う尿検査や血液検査で、血尿や蛋白尿の有無や腎機能の数値を確認し、異常があるとなれば、自覚症状がなくても一度ご受診下さい。
発症の原因は、ひとつではありません。主に糖尿病や高血圧等の生活習慣病の発症が引き金となることが多いです。ただこのほかにも、細菌の感染によって腎臓の糸球体に炎症が起きる、何らかの血液疾患、あるいは自己免疫疾患による場合などもあります。
よくみられる症状ですが、発症初期は自覚症状が現れないことが大半です。この時期で気づくケースとしては、健診による血液検査や尿検査の結果で何かしらの異常があったという場合が大半です。ただ病気がある程度まで進行すると、身体にむくみ、疲れやすい、尿が泡立つ(尿中に含まれる蛋白質が増える)、倦怠感、血圧が高くなる、血尿などがみられるようになります。
健康診断でよく指摘される腎臓の異常について
Cr(クレアチニン)が高い、またはeGFR(推算糸球体ろ過量)が低い
腎臓は体内の老廃物を尿へ排泄することで、体内をきれいで適切な状態に保っています。腎臓の働きを示す指標に糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate:
GFR)があります。GFRは腎臓の糸球体という場所で1分間に何mLの血液を濾し出して(濾過)尿を作る能力を表しています。この値が悪いと不要なものが体外に出せなくなります。そして病気が進行すると透析を行わなくてはならなくなります。
日常診療では血液中のクレアチニン濃度と年齢、性別からGFRを推算しています(eGFR)。eGFRはこちらから求めることができます。
GFRは健康ならおよそ100 mL/分/1.73m2ですので、eGFRを元気な若い頃の状態と比べた百分率(%)と考えることができます。eGFRが60 mL/分/1.73m2未満だと慢性腎臓病(Chronic
Kidney Disease:
CKD)と診断されますが、これは健康な人に比べて腎臓の働きがおよそ60%未満にまで低下していると考えていただくと分かりやすいでしょう。クレアチニンは体の筋肉で作られるため、同じ腎機能でも筋肉の多い人は高い値になり、逆に筋肉の少ない人は低い値になることに注意が必要です。Crは血液検査でわかる一般的な腎機能の指標です。eGFRは、Cr、年齢、性別によって計算された腎機能のより正確な指標です。筋肉量が少ない方では、血清クレアチニン値は腎機能を正確に示さない事が知られています。その様な場合は、シスタチンCという別の血液検査値を用いて腎機能を評価します。シスタチンC値を用いても推算GFRを算出する事が可能です。当クリニックでは慢性腎臓病の患者さんには、シスタチンC値を用いた推算GFRを測定しています。
尿蛋白がある
蛋白は、Crが高くなる(腎機能が悪化する)よりもずっと前に、腎障害の有無がわかる大切な指標です。尿しかし、尿蛋白陽性が必ずしも、腎機能悪化につながるわけではありません。尿蛋白は、問題のないものと、腎臓の異常を疑わせるものに分かれます。例えば、体が脱水で尿が濃い場合、尿蛋白が±~1+になることもあります。その他、ストレス、運動後などに尿蛋白が検出されることもあります。一方、腎臓の中でろ過をするために重要な働きをしている糸球体が壊れかかっている場合(慢性腎炎・腎硬化症・糖尿病性腎臓病など)では、本来漏れてはいけない蛋白が尿中に漏れてきます。
尿蛋白が検出された場合は、必ず再検査を行いますが、尿の試験紙法だけでなく、尿蛋白量と尿クレアチニン濃度を定量し、尿蛋白/クレアチニン比を求めることにより、より正確な蛋白尿を把握することができます。
必要によっては、24時間蓄尿検査などで、より正確な評価をする必要があります。尿蛋白が心配な方は、是非、ご相談ください。
尿潜血がある
尿潜血は、尿に血液(特に赤血球)が混じっている状態です。
大きく分けると、内科的なものー慢性腎炎など、泌尿器科的なものー結石・腫瘍・炎症など、原因不明なものに分けられます。
年齢、性別、血尿の期間、腫瘍の危険因子の有無などで、次に、何を調べるかが異なります。
- 内科的なもの
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特に蛋白尿を伴った血尿は、慢性腎炎が強く疑われますが、慢性腎炎の初期では血尿のみの場合も数多くあります。特に、慢性腎炎の代表であるIgA腎症は、血尿が必発なので、これを鑑別していかなければなりません。尿沈渣という、詳しい尿検査や各種の採血などできちんと調べ、最終的にIgA腎症が強く疑われた場合は、腎生検という組織検査が必要になります。この場合は、信頼がおける腎臓専門の病院にご紹介します。
- 泌尿器科的なもの
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尿路感染(膀胱炎など)や腎・尿路結石の有無、腎臓~膀胱の腫瘍の有無をチェックします。尿沈渣、尿培養、尿細胞診などを適宜行い、また、超音波検査またはCT検査などの画像チェックを行います。特に、腫瘍が疑われた場合は、泌尿器科の専門病院をご紹介し、更に検査をすすめていく必要があります。
上記の検査を行っても原因不明である血尿も少なくありません。
この場合は、3-4か月に1回くらいの頻度で、定期的に経過をみさせていただきます。
治療について
1.塩分制限
血圧の上昇・高血圧は、慢性腎臓病の発症・進行のみならず、脳卒中・心筋梗塞・うっ血性心不全などの循環器系疾患の最大の危険因子です。高血圧の発症には、日々の生活習慣が深く関与しており、塩分の摂り過ぎが血圧上昇の一因となっていることや、高血圧の予防や治療には、塩分制限が重要であることが広く知られています。特に、食塩(塩化ナトリウム)に含まれるナトリウムは、体液量の調節に深く関与しており、ナトリウムの体内の蓄積が、体液量の増加・血圧の上昇を来すことが知られています。日本高血圧学会は、高血圧の治療に塩分制限が重要であり、高血圧の方には、1日6.0 g未満の食塩の摂取制限を推奨しています。当クリニックでは尿検査から患者さんがどの程度の塩分を摂られているかの検査を行います。
2.たんぱく制限
んぱく制限は個々の患者さんにそって行う必要があります。たんぱく質制限食は、主に中等度から重度のCKD患者さんに対する食事療法として推奨されています。たCKD患者さんにおいてたんぱく質制限を実施する場合には、糖質や脂質の摂取が不十分で必要エネルギー確保されないとたんぱく質利用効率が低下します。つまり、効率の良いタンパク質代謝を維持するためには、エネルギーの確保に十分に注意することが重要です。また高齢者の方では、エネルギー不足により、サルコペニアやフレイルの発症、動脈硬化の進展、骨塩量低下などのリスクがあります。また、腎臓病患者さんにともなう低栄養は「protein-energy wasting」と呼ばれます。とくに厳格なたんぱく質制限では、この問題が重要となります。
3.高血圧治療
腎臓は、塩分・水分の排出により体液量を調節したり、血圧を上昇させるホルモンを制御したりしています。腎臓病では、これらのコントロールがうまくいかなくなり高血圧が生じます。高血圧に伴い腎臓は更にダメージを受け、ダメージをうけた腎臓はさらに血圧を上昇させるという負の悪循環に陥り、病気は悪化していきます。降圧薬には多くの種類がありますが、蛋白尿を認める腎臓病ではレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬という薬剤を中心に治療します。理由としては、蛋白尿が持続することで腎機能は更に悪化しやすくなること、RAS阻害薬は尿蛋白を減らす作用を併せもち、腎保護効果を発揮するからです。一方、蛋白尿を認めない腎臓病では、カルシウム拮抗薬や利尿薬といった降圧薬も使用されます。また、血圧は季節性に変動し、夏場は下がりやすくなります。特に、脱水があるとRAS阻害薬や利尿薬は効き目が強く出すぎることがあるため、注意が必要です。したがって、汗をかいて脱水を起こしやすい夏場には、降圧薬を減らす場合もあります。
4.新規慢性腎臓病治療薬
近年、血糖降下薬として使用されているsodium glucose co-transporter 2 (SGLT2)阻害薬が、2型糖尿病を合併した慢性腎臓病(CKD: chronic kidney
disease)のみならず、糖尿病非合併CKDに対しても使用が可能となりました。
腎臓における炎症や線維化には、ミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰活性化が重要な役割を果たしていることが解明されている。MRは主に腎尿細管上皮細胞において電解質の貯留・排泄の調整をつかさどり、さらに尿細管以外の腎糸球体、心臓、血管など全身にも広く分布していることから、MRの過剰活性化により腎臓や心血管系において、炎症、線維化、ナトリウム貯留や臓器肥大が生じることが明らかになってきた。 フィネレノンは炎症および腎臓の線維化を引き起こすミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰活性化を抑えることで、心血管・腎臓障害を抑制する、非ステロイド型選択的MR拮抗薬です。
新しい薬の登場によって、慢性腎臓病の治療は大きく変わっています。慢性腎臓病と診断された方は、腎臓専門医の受診をお勧めします。
5.ステロイド
ステロイド薬は、抗炎症作用、免疫抑制作用を有することから、多くの腎疾患(ネフローゼ症候群・糸球体腎炎など)に投与されます。それぞれの疾患や重症度の違いに応じて、ステロイド薬を点滴で投与したり(ステロイドパルス療法)、内服で投与します。
一方で、ステロイド薬を投与する際には、副作用に注意が必要です。ステロイド薬の投与量や投与期間によって副作用発現頻度と時期は異なりますが、一般的な副作用としては、感染症(細菌・ウイルス・真菌、虫歯やにきびの悪化など)、高血糖、高血圧、骨粗鬆症、消化性潰瘍、脂質異常症、精神症状、眼科的合併症(白内障・緑内障)、肥満、満月様顔貌などがあげられます。投与前に眼科や歯科を受診したり、予防薬を投与したりします。
また、多量のステロイド薬を長期間投与した場合、副腎は萎縮して機能不全におちいる可能性があり、ステロイド薬を急に中止すると、低血糖・ショック・下痢・発熱などの生命に関わる症状が出る可能性があり注意が必要です。
6.免疫抑制薬
特にネフローゼ症候群や糸球体腎炎・血管炎のような腎臓病患者さんで、過剰に活性化している免疫反応を抑える薬です。副腎皮質ステロイド薬のみで効果が乏しい場合、副作用や併存症のため副腎皮質ステロイド薬が使えない場合、もしくは減量や中止が望ましい場合などに使用されることが多い薬です。病気の種類に応じて、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン、ミゾリビン、シクロスポリン、タクロリムス、ヒドロキシクロロキン、リツキシマブ、ベリムマブ のような免疫抑制薬が使用されています。
7.赤血球造血刺激因子製剤
造血を促すホルモンであるエリスロポエチン(EPO)は主に腎臓から産生されています。よって腎臓の機能が低下するとEPOを産生する力も低下し、貧血になってしまいます。この貧血を腎性貧血と呼びますが、この貧血を治療するために赤血球造血刺激因子(ESA)が用いられます。ESAの歴史は古く、遺伝子組換えヒトエリスロポエチン(rHuEPO)として我が国では1990年から臨床使用され、その有効性と安全性は確立しています。ESA製剤は注射製剤で皮下注射もしくは静脈注射されます。現在は短時間作用型(半減期が短い)と長時間作用型(半減期が長い)ESAが販売されており、患者さんの状態に合わせて選択されています。
8.HIF-PH阻害薬
DNAに結合して遺伝子の発現を調整する因子を転写因子と呼びますが、低酸素誘導因子(HIF)は、生体内が低酸素の環境になると応答する転写因子です。HIFは正常の酸素状態ではプロリン水酸化酵素(PHD)の働きで瞬時に分解されますが、低酸素状態になるとPHDの活性化が低下してHIFが安定化して、DNAに結合できるようになります。貧血になると、酸素が十分運搬されず、低酸素環境となりますので、HIFの発現が安定して活性が保たれます。HIFの働きにより、腎臓などで産生される造血ホルモン(エリスロポエチン:EPO)が産生されるだけでなく、食事や薬に含まれる鉄分の腸吸収が増加したり、生体内に貯蔵された鉄を再利用させたりして、貧血を改善する作用があります。腎機能が悪い方はEPOの産生が相対的に低下して、腎性貧血になりますが、HIF-PH阻害薬は、PHDの活性を阻害して恒常的にHIFを安定化させることでEPOの産生や鉄の利用率を高める腎性貧血治療薬です。